歴史ある「京都市美術館」の名前まで売却!?ネーミングライツについての質疑メモ(2016年9月6日/くらし環境委・文化市民局・井坂博文議員)

◆井坂議員/8月9日の委員会で「ネーミングライツの制度的・法的根拠はどこにあるのか」と聞くと、「民法上の権利関係の契約であり地方自治法上の位置づけはなく、議会の議決も不要」との答弁だった。これがネーミングライツの問題点だ。もう一つ、「市民の税金で建設した公共施設が、議会の議決を経ないまま施設の名称を民間企業に売り渡していいのか」とも指摘した。他会派からもいろいろな意見や指摘があり、8月12日に文化市民局は「ネーミングライツの募集開始を遅らせる」と発表。その理由は「8月9日の委員会で出された意見について検討する」とのことだった。私が指摘した2点について検討はされたのか。

(→北村・文化事業担当局長)いまおっしゃった「議会の関与」「公共施設の名称」は、ネーミングライツの制度そのものに関わる問題。担当の行財政局に議会の意向を伝えた。

◆井坂議員/たしかに所管は行財政局だが運用するのは各局。「私たちは実行するだけ」という姿勢では、吉井議員(自民)が言うように、「じゃあ美術館に続いて二条城や市役所もするのか」となる。市長が判断したらそれができる。お金がないという理由で何でもできる。文化芸術をつかさどる文化市民局がそれでいいのか。検討の結果、「市民の理解をいただきながら進める」と言うが、そんなの当たり前のことではないか。「名前の冒頭・冠に『京都市』を持ってくるから市民の愛着や美術館の歴史的経過を踏まえた」と言うが、じゃあ「ロームシアター京都」を「京都ロームシアター」にすれば位置づけが高くなるのか。こんな小賢しいやり方で検討したと言われても到底納得できない。あらためて聞くが、「行財政局に下駄を預けた」が、局としては「検討していない」のか。

(→北村・文化事業担当局長)当然私ども文化市民局あげて議論した。副市長のもと行財政局とも意見交換した。今回美術館がおかれている状況から、行財政局で制度の在り方を検討する一方、私どもは9月1日から募集開始させていただく判断をした。

◆井坂議員/なぜ9月1日から募集を開始したのか。8月9日の意見で検討したのであれば、本日(9月6日)の委員会でそれをまとめて局として見解を表明し、そのうえで募集を開始するというのが議会に対するきちんとした対応じゃないのか。だから言ってる。「制度的・法的根拠がなく議会の議決を必要としない」問題があると。

(→北村・文化事業担当局長)美術館の再整備の工事契約議案を11月議会に提案したい。100億円規模の工事契約の提案。財源を明示し議会に説明するのが議会や市民への説明責任。その責任を果たすために募集開始した。議会とのキャッチボールも十分承っている。

◆井坂/「議会の意見は聞くが、実行するのは自分たち」という考えが見え見えだ。「11月議会で議案を出すためには逆算で9月1日から」「市民への説明責任」と言うが、自分たちの計算通りやるための勝手な理屈じゃないか。こんなに議会をバカにし、なめた話はない。昨日の経済総務委員会で自民党の委員も指摘した。そこで所管局の行財政局は何と言ったか。「いまネーミングライツの制度要項について見直しをしてる」「何でもありの要項になっている」「どこかで歯止めをかけないと」と。これが行財政局の認識。所管局が制度要項を見直そうとしている時に、なぜ文化市民局が見切り発車するのか。

(→北村・文化事業担当局長)ご指摘のとおり、現時点でネーミングライツは、議会の議決を要さず「要項」で実施するもの。8月9日の委員会でいただいた意見を最大限取り入れ要項を策定した。制度への意見は行財政局に伝えた。美術館の再整備はどうしても時間とのたたかい。平成31年度にはオープンし、以降もオリンピックという大きな文化の節目もある。そういったことも含め9月1日から募集を開始した。

◆井坂議員/まったく説明になってない。所管局が「制度要項の見直し」を言っている時に、別の局が見直しの対象となっている要項で実施するなど支離滅裂だ。平成27年度の海外展スポンサーは、読売テレビ、読売新聞、毎日放送、京都新聞社。それぞれがスポンサーになって海外展をやってる。しかし例えば、このいずれかの企業が美術館にネーミングライツで名前をつけたら、それ以外のメディアが企画を持ち込んでやれるか。そんなことにはならない。京都市美術館の歴史があるからこそだ。企業の名前を冠することは美術館の自殺行為につながるという認識はないのか。

(→北村・文化事業担当局長)募集要項に「市民の愛着、美術館の歴史経過」も書いているし、審査基準に「美術館の機能を果たす」「市民にわかりやすいネーミング」と位置付けている。企業名や製品名の色合いが出るので「ロームシアターではできない」という東京の企業もある。どうしても憂慮すべき事項としてそういったこともある。そのことを十分念頭に置きながら検討したい。

◆井坂議員/平成26年3月、京都市美術館評議委員会がまとめた「京都市美術館将来構想」答申。「輝かしい伝統を継承し、世界に誇る美術館であるために、創建80年目のイノベーション」と銘打っている。この将来構想は、美術館の整備運営にあたってどういう位置付けか。

(→北村・文化事業担当局長)80年間、京都、日本の美術界の中心として役割を果たしてきた美術館が、これからもそういった役割を引き続き担えるよう各界のご知見をいただき、今回の再整備にあたっての土台としてまとめたもの。

◆井坂議員/それではこの将来構想で「美術館開設に至る経過」、その後の「歴史的展開」については、どう記述してあるか。

(→北村・文化事業担当局長)昭和天皇の大礼を記念し「美術館を設立すべし」という、京都のみなさんの声があがり、当時の市民の浄財を集め「大礼記念美術館」として昭和8年に建設されたもの。その後一時、駐留軍に接収されたが、接収が解消された後、条例で「京都市美術館」と改称し、戦後のスタートを切った歴史を持っている。

◆井坂議員/その通りだ。昭和3年天皇の即位を慶祝し、当時の経済界と市民がお金を拠出し作られた。進駐軍に一時期接収されたが、それを京都市が引き取って再開したもの。将来構想の中では「我が国における先駆けとして、美術館機能の形式を体験した唯一の美術館であり、80年の歴史を誇る京都市美術館の歩みは、そのまま日本における美術館の歴史といっても過言ではない」とある。これが京都市美術館の歴史であり重みだ。「大礼記念京都美術館」の「年報」では、竣工式の祝辞で関一・大阪市長(当時)が「市民から百数万円の寄付が寄せられた(*工事総額は107万円)」と述べていることも書かれている。これが京都市美術館の出発点。「京都市立美術館」でなく「京都市美術館」なのは、ここに歴史の由縁がある。京都の当時の経済界と市民の方が天皇の大礼の慶祝としてお金を出し合ってつくり、一時進駐軍に接収されたが、それが京都市にもどり京都市美術館という今日の名前になった。京都市はそれを引き継いだだけだ。この美術館を「再整備にお金が足りないから」と50億円で、命名権を売却していいのかと。これは美術館の80年の歴史に対する冒とくではないか。

(→北村・文化事業担当局長)ご指摘はまったく的外れ。80年の歴史、我が国において評価の高い美術館、これを再整備したいという非常に強い思いを持っている。冒涜どころか「市民のみなさんの負担をできるだけ減らしたい」という思いと、美術館を再整備するスピードの問題がある。再整備してこれから80年100年と輝く美術館をつくりたい。その点ご理解いただきたい。

◆井坂議員/「市民の負担を減らすために、企業から命名権でお金をもらうのは、80年の美術館の歴史を生かしたことだ」と言うが、そもそも出発点の時に、みなさんが血のにじむような努力をしてつくった美術館だ。その名前に一企業の名前を冠することが歴史に対しての冒涜ではないのかと指摘している。あなたの答弁こそ的外れだ。将来構想では「魅力ある美術館であり続けるための財源確保が必要」とあるが、そこでは具体的に何が提案されているか。

(→北村・文化事業担当局長)「本市の財政状況が厳しい中、さまざまな工夫が必要である」「企業からの寄付や協賛、所蔵品の寄贈に向けた働きかけを行う」「資金調達の専門スタッフ、ミュージアムショップ、レストラン等も含めたトータルなマネージメント、展覧会収益を運営費に充当する仕組みなど、さまざまな手法を検討する」と書いている。

◆井坂議員/どこに「ネーミングライツをやるべき」と書いてあるのか。「企業の寄付や協賛」と「ネーミングライツ」は根本的に違う。誰が、いつ、どの段階で、ネーミングライツという手法を考え提案したのか。

(→北村・文化事業担当局長)ネーミングライツという言葉そのものはないが、「さまざまな手法で財源を確保する」という中に趣旨として含まれていると理解している。

◆井坂議員/それならこの段階からネーミングライツを考えていたのか。確認したい。なぜなら、市民のみなさんが、岡崎地域で美術館に対して「ネーミングライツなどやるべきではない」と言った時、窓口で対応した人は、「そんなことまったく考えてません」と言っている。しかしいまの答弁では「この将来構想の段階からネーミングライツは考えてる」と。これは市民に対する背信、だまし行為ではないか。

(→北村・文化事業担当局長)構想を策定したのが平成26年3月。この時すでにロームシアターのネーミングライツの話も進んでいる。行財政局の要項も平成20年にできた。京都市総体として「さまざまな財源確保の手法の一つとしてネーミングライツがある」と、これは紛れもない事実と認識している。

◆井坂議員/そんなこと言ってないではないか。80年の歴史と伝統ある京都市美術館にネーミングライツをやることの是非について質問している。いらんこと言うたらあかん。はっきりしないとダメだ。「当時ロームシアターでやってたから」「将来構想が平成26年3月に答申あり、その時にも財源確保について入ってるんだ」と言うが、体外的には「そんなことやりません」と言っていた。だから他の委員のみなさんも心配している。次は二条城か、次は市役所かと。市長が判断したらどこでもできると。いつの間にやら方針が変わって「やります」と。「議会の議決」がないから自由に市長ができると。それが今度のネーミングライツなんだと。この問題点を直視しない限り、いくら言い繕っても的外れな答弁だ。

最後に政策監にお聞きする。政策監の著書『自治体文化政策・まち創成の現場から』に「美術館運営と経済主義」というページがある。そこでは、「経済中心主義の負の実例」としてスミソニアン協会の例がある。「ゼネラル・モーターズ(GM)から1000万ドルを受け、一つの産業全体を描く展示スペースにGM輸送史室と名前を冠する特権を与えた。それに対して協会内外から激しく責任を追及された。これは、スミソニアンの評価と信用の根拠となっているものを売ってしまったことに対する批判である」「行きすぎた経済中心主義への傾斜を戒めた実例と言われている」と。これが政策監の著書に、美術館の項の中にある。政策監は京都市において文化や芸術に対し造詣の深い方と一目置いている。その政策監の言葉であるがゆえにこの問題は大事だ。美術館のネーミングライツが走り出そうとしているが、政策監が書かれた点から考え、もう一度立ち止まり、ネーミングライツについて見直すべきではないか。

(→平竹・文化芸術政策監)美術館に必要とされるのは「公共性」。その公共性をゆがめるような形での商業主義・経済主義は、もっとも大切なものをゆがめてしまう、弊害であると私自身は理解している。今回の京都市美術館のネーミングライツは、現在、日本国内あるいは世界で京都市美術館がしめている地位・信用を維持するためには、この段階で再整備を行いハード面を整える、あるいは運営面等も世界・日本国内の著名な美術館に負けないようにする必要があり、そのための資金としてネーミングライツをお願いしたいという趣旨と理解している。多くの京都の企業は、京都に誇りを持っている。「本社を東京に移さない」とも言われる。企業それぞれの得意な分野、関心ある分野で、社会貢献、地域貢献をしていただいている。これからの文化を支えるのは、行政だけで、市民のみなさまの税金だけでは非常に難しい。地元に貢献したいと思っていただける企業のみなさんと、京都の文化発展に我々も邁進したい。ご指摘いただいた点は十分に、運営面等に関しては企業の方に関与されないと明確にしながら、事業については進めてまいりたい。

◆井坂議員/公共施設としての「公共性」、および、「京都市に対する誇り」、これを大事にすることが必要だとおっしゃった。80年の美術館の歴史をあらためて見直したとき、本当に脈々とそれが流れている。それをしっかり大事にすることだと思う。それが行政の力だけではできない、市民の税金だけではできないから企業から一定の寄付をもらう、これを否定しているわけではない。京都市動物園では銅板で企業の名前を飾っている。寄付をえさ代にし動物園の発展のために寄与してもらっているお礼としてやっている。そういうことはあり得る。だが、施設の名称に一企業の名前を冠するのは、いろんなマイナス、負の遺産が出てくると指摘したい。「100億のお金が大変なので50億をネーミングライツで」と言うが、だったらその100億を減らしネーミングライツをしなくてもできる改修・再整備を検討するのも一つの道だ。それを市民のみなさん、企業のみなさんに呼びかけ協力してもらうと。再整備そのもののあり方についてもまた意見交換、質疑したい。今回の問題が示したものは非常に大きい。ネーミングライツは、せめて、少なくとも美術館については、見直し、やめるべきだ。

2016年9月6日【くらし環境委】文化市民局/一般質問「京都市美術館ネーミングライツについて」

(更新日:2016年09月08日)