京都市美術館の運営費激増は「特定企業への民間委託」が背景(2023年3月3日/予算特別委・文化市民局・やまね)

◆やまね/美術館の運営費に関わっていくつかお聞きしたい。そもそも我が国における文化予算は諸外国に比べると大変貧弱。日本共産党は国や自治体の文化芸術予算の抜本的増額を求めている。それを踏まえたうえで、京都市の予算について精査すべきと考えている点を質疑したい。「京都市美術館の運営費」が再整備後に急増している問題について。予算・決算の資料を見ると、再整備前は2億円前後だった運営費が、再開後は10億円前後となっている。

館内の面積が増えたことで維持管理費や光熱水費等が増えることは当然考えられるが、運営費が再整備前の5倍規模、ここまで大きく増えた原因は何かを教えていただきたい。それから、新聞報道では「京セラ美術館 公費負担9倍」「公費投入額は16年度の3900万円から、20年度7億9700万円、21年度3億6600万円に急騰」とあるがこれが事実なのかどうか。まずこの点を教えていただきたい。

(→坂根・美術館担当部長)まず運営経費増加の理由だが、京都市美術館の再整備にあたって、建物や設備の単なる老朽化対策ではなく、当時、社会状況や美術を取り巻く状況変化の中で「展示スペースが不足」「運営体制が脆弱」「現代アートなど美術作品の多様化といった時代の変化への対応不足」といった課題も踏まえ、美術館のさらなる発展をめざして再整備を実施した。そのために必要な機能を備えるための整備をおこなったことで、施設規模が大きくなったこともあるが、設備管理費や運営サービス等の経費が増加したという状況。具体的には、常設展や新館の展覧会の企画運営、展示室や共用スペースの拡張に伴い、清掃費用や案内サービス業務が増加していること、また、恒温恒湿の空調の導入や施設の拡張により、光熱水費が増加したり、設備管理費が増加したことに加え、オンラインチケットの販売や発券ゲートなどのシステム運用、また、MICE利用などのスペースレンタル促進のための施設マネジメント業務等々、美術館が課題を解決するためにおこなった再整備により、大きく以前の美術館と内容も異なる事業を実施している関係で運営経費が増加している。

また、公費負担の増加だが、新聞報道であった(平成)28年度の決算額から、(令和)3年度の決算額にかけ・・・約9倍になっていることは事実。ただ、美術館においては、運営費の改善は、厳しい財政状況の中、削減する取り組みは不可欠と認識しており、令和2年3月に市会からいただいた付帯決議も重く受け止め、経費節減の努力を継続しておこなっている。令和5年度予算では、令和3年度決算から経費については約8000万円削減。また、一般財源についても、削減努力を進めている。運営経費における収入の割合は、他の主要な公立美術館と比べ、高い収益率とはなっている。ただ、再整備前は、かなり小規模・最低限の運営をおこなっていた時点から比べると、一定規模大きくなり、公費、多額の経費を頂戴しているので、引き続き、経費削減と魅力ある展覧会の開催等による収入の増加も図り、公費負担を減らせるよう徹底して取り組むこととしている。

◆やまね/再整備に伴い現代アートのための新棟「東山キューブ」がつくられた。そこで開催されている「展覧会の負担金」がかなり大きな額。令和3年度の「ドラえもん展」には京都市が負担金1億1191万円を計上している。ちょっと、不思議に思ったのは、これまで美術館本館で開催されてきた海外展、ルーブル美術館展、ゴッホ展、フェルメール展など、テレビ局や新聞社と共催するような企画は、空調などの電気代もテレビ局や新聞社が負担している場合があると聞く。京都市には入場料の一部や会場使用料が収入として入ってくることはあっても、1億円規模の負担金が発生するということはなかったのでは。そこでお聞きしておきたいのは、これまで東山キューブで行われた展覧会の市負担金について、年度ごとに取り組まれたものと金額を教えてほしい。それから、市負担金は丸々本市の負担、収支で言えばマイナスになるのか。収入になる部分もあるのか。

(→坂根・美術館担当部長)ルーブル展等は、今年もまた開催するが、マスコミ等の主催者による共催展は、現在においても市の支出負担はないという状況で実施している。

ドラえもん展等の展覧会は、リニューアル後、東山キューブという現代アートに適した展示室をつくり、美術館の再整備基本計画等でもこれまで、ほぼ貸館のような形で、受け入れのみをおこなってきたという状況から、館として企画をして展覧会を自主的に実施するという展覧会を近代と現代と両方開催していくことを目標としていたので、リニューアル後は自主企画の展覧会を開催している。議員先ほどご紹介のドラえもん展も自主企画の展覧会で、企画を一部購入とはなっているが、自主企画展として開催している。

そして、東山キューブでの自主企画展の展覧会と本市の負担金だが、(令和)2年度、オープニング後すぐに実施した杉本博展1億3397万5000円、平成美術展覧会9784万8000円。(令和)3年度、ドラえもん展1億1191万5000円、モダン建築の京都展1億1595万4000円。(令和)4年度、森村泰昌展9980万2000円、こういった金額を京都市から支出している。こちらは京都市から歳出予算として支出している金額になる。展覧会を開催すると、市には施設使用料が入ってくるのと、チケット等の売上に応じて観覧料が入ってくる。そうした収入等の金額と相殺し、残余の金額が市に戻ってくる仕組みで実施している。

そして、令和2年度の展覧会については、コロナの真っただ中で集客のほうがかなり伸び悩んでいたので、いずれの展覧会においても、おそらく全国的に入場者数は落ち込んだ時期かと思う。この時の展覧会収支はやはり赤字となった。令和3年度は、コロナ禍ではあったが、魅力ある展覧会の開催ということで、ドラえもん展は黒字、モダン建築の京都は内容については評価が高かったが、若干の赤字。3年度については、自主企画展としてはほぼ収支が均衡。(令和4年度)森村泰昌展についても若干の赤字。展覧会については、市から出す一方ではなく、戻ってくる金額もあるので、一概に公費負担が展覧会の開催によって増えるというようなことはないと思っている。

◆やまね/この市負担金が、そのままマイナスになるということではないという点はわかった。ただ、先ほど、施設規模が大きくなったことで、やはり、収入増に努めなければならない、集客増に努めなければならないという話があったが、美術関係者の方からは、「元々、大陳列室(今はロビー的なところ)は天井高16mの大空間があり、建物中央の吹き抜けがあった。あるいは、昔、空調機会が置かれていた中庭がデッドスペースになっていた部分を活用すれば、この90年の歴史を持つ建物で、一定規模の現代アート、新しい表現もできたのではないか」というご意見もいただいている。建物を拡張したことで、人をいっぱい入れないといけない、集客、稼ぐことが自己目的化していくと、私たちは、ネーミングライツの議論をしたときに非常に危惧していた問題だが、公立美術館としての役割が、違うところに向かってしまうのではないかと心配している。

もう少し聞くが、東山キューブの運営業務は、プロポーザルで民間委託されている。委託先は1年ごとに公募されていたと思うが、これまで東山キューブの運営業務に手をあげた事業者の数、実際の委託先、委託金額について、それぞれ年度ごとに教えてほしい。

(→坂根・美術館担当部長)東山キューブの運営だけを委託しているのではなく、「事業企画推進業務」という新館での展覧会の企画運営のほか、若手芸術家の支援、広報、営業、運営支援など、その他業務も含め、委託をおこなっている。委託実施年度は、初めは(平成)30年9月~31年3月31日までを「リニューアル準備業務」としてプロポーザルをおこなった。その時は2社から応募があり、委託金額は6100万円。平成31年度は同じく「リニューアル準備業務」、令和2年度は「事業企画推進業務」、オープンの年なので、若干内容、名称が変わっているが、この間、リニューアルがコロナの関係で延びたり、オープニング事業等も委託業務としていたので、(平成)30年度に受託した事業者に引き続き随意契約として実施していただいた。金額は各年度1億3300万円。令和3年度、令和4年度も、それぞれプロポーザルをおこなっているが、従来受託していた業者1者の応募により、そのまま継続して受託いただいている。令和3年度が1億3300万円。令和4年度が1億1970万円。

◆やまね/つまり事業者としては、ずっと同じ事業者が運営業務を委託されている。私の手元に、京都市への情報公開請求によって提出された資料がある。業務名称はいま言っていただいた「京都市京セラ美術館・事業企画推進業務」(令和3年度)。事業者による見積金額は合計1億3300万円。先ほどお答えいただいた通りの金額。令和元年、令和2年も同じ金額、同じ内容だと思う。内訳を見ると、大半がスタッフ20人の人件費。違和感を覚えたのは給与1000万円を超える方が3名(マネージャー1620万円、プログラムディレクター1200万円、事業推進ディレクター1200万円)。その一方、学芸担当のプログラムアシスタント360万円、ラーニング担当キュレーター360万円、ラーニング補助240万円、業務進行管理216万円、業務サポート180万円、大変格差が激しいというか、非常に少ない金額で雇われている方もいる。これは情報公開請求で京都市が提出されたものだが、この数字に間違いはないかを確認したい。この金額の妥当性について京都市はどう評価しているか。

(→坂根・美術館担当部長)見積書については、当方に提出されたものを情報公開請求で出させていただいたものなので、内容に間違いはない。

金額については、各職員の給与額になるので、それぞれの事業者の中での取り扱いについては、当方関与できないことだが、1000万を超える人物について、当方からの委託の際の仕様書において「展示企画等の業務委託においては、美術館運営に関する高度なノウハウや国内外の美術館とのネットワークを有し、事業企画において、的確な判断のできる人材を配置していただきたい」ということでプロポーザルをかけた結果、それに見合う能力の方を配置して応募されたもの。一定、能力に見合った金額ではないかと考えている。また、国立の美術館等の学芸課長等で給与額1200万程度というような数字も出ているので、妥当な金額ではないかと当方では考えている。

◆やまね/今、私が紹介した資料は、事業者側の見積もり。それがそのまま金額になっている。事実上、事業者側の言い値になっているのではないか。京都新聞2022年11月22日付では「庁内からは『財政難の中、わざわざ多額の費用を払って委託する必要があるのか』と疑問の声も」と報道。再整備後、東山キューブを民間委託し、毎年1億円以上の人件費が実際にかかっている。しかも公募で手をあげているのは1者のみというのをみれば、結果として、特定の民間企業を儲けさせる仕組みになっていないか。この点は指摘しておきたい。

再整備前は、テレビ局や新聞社と共催する海外展で一定の収入も得て、全体として年間2億円前後の歳出・歳入で大きな赤字も出さず運営されていた。そのときの学芸員・事務職員の体制としては、それぞれ3~4人程。いろんな苦労はあったと思う。マグリット展のときには、エアコンが故障して、大変なご苦労があったと思うが、私は、学芸員の資格を持つ市の職員さんが、展覧会や企画の多くを担って、たくさんの来場者を受け入れていたということなので、そういう経験を通じて、学芸員さんの経験が、京都市に蓄積されていると思う。これは大変大事なことだ。京都市美術館というのは、昨日今日できたものではない。その歴史、コレクション、京都市ならではのものがたくさんある。京都市出身の作家さん、市立芸大の卒業生、市立芸大で教えておられる先生の作品もある。京都市全体の文化行政を貫くオリジナルのものがある。それをどう見せていくか、どう発展させていくかというところがすごく大事だ。京都市美術館の担う役割は大きい。その時に学芸員の数は多少増えても、外注ばかりしていたのでは、せっかくの知識・経験が、京都市の中に蓄積されていかないのではないか。そういう課題があるのではないか。認識はどうか。

(→坂根・美術館担当部長)学芸員については、現在、直営の学芸員が近代美術のほうを専門にしており、同じように近代美術の主催展覧会を企画して運営している。また、リニューアルしてから、コレクションとの対話展をしているが、現代アートの作家さんと連携して展覧会等を実施しているので、現在の学芸員については、そういう経験の蓄積、過去からいる職員からの知識の引継ぎ等を受けており、引き続き美術館の今後の発展、また、多くの皆様への、魅力的な展覧会を見ていただけるよう環境づくりに力を尽くしてもらえると認識している。

◆やまね/今言われた知識の引継ぎの重要性は否定されないと思う。京都市の文化行政を担う人材を育成していくことは非常に重要だ。その点で美術館の運営はこれからも直営を貫き、学芸員を京都市が正規で雇い育てていく、この点を頑張っていただきたい、これは要望だけしておく。

「文化芸術推進都市」を掲げる自治体として、若手アーティストの育成や支援も大変重要だ。コロナ前に、文化市民局も関わるHAPS(東山・アーティスツ・プレイスメント・サービス)が、毎年芸術系の大学・学生を対象に「大学調査」を8年ほどされていた。2019年度当時は、嵯峨美術大学・京都造形芸術大学・京都精華大学・市立芸大の4大学から435名が回答されている。調査内容は「卒業後はアーティストとして制作を継続していこうと思いますか」「卒業後も京都を拠点に制作を継続したいと思いますか」「制作場所は居住場所とは別に必要だと思いますか」など、若いみなさんの京都での活動継続について聞かれている。それが2020年度以降「コロナ禍でこれまでとは条件が大きく違い経年比較できない」として行われなくなったと聞いている。今もこの調査は行われていないのか。あらためて、学生のみなさんの声を聞く取組を復活させるべきではないか。

(→砂川・文化芸術都市推進室長)ご紹介あったアンケートは、一般社団法人HAPSにおいて、若手芸術家の支援をおこなっているHAPSの事業についてのニーズ効果を把握することを目的として、紹介いただいた4つの大学等の学生、あるいは地域の方にアンケート調査しているもの。

このアンケート調査については、コロナの影響において、イベント等の中止や大学での対面授業が行えない時期があったので、アンケートの配布や回収が困難だったことを理由として、HAPS内で検討された結果、令和2年度以降はおこなっていない。しかしその代わりとして、今年度まで学生やアーティスト等のインタビューという形で聞き取りなどをおこなっている。アンケートについては、当然にコロナの影響で止まっているということで、もとより、今後、実施していきたいと考えているので、再開については、HAPSの専門の先生の意見も聞きながら、情勢を見極めて対応してまいりたい。

◆やまね/やはり京都市自身が関わっている団体の取り組みで、学生さん一人一人の声を聴いていただくのは、非常に大事なことなので、ぜひ今後検討していただきたい。

最後にもう一点聞く。市立芸大の移転整備が進められているが、その一方で、芸大で学ぶ学生のみなさんへの支援はどうか。共産党議員団の要求資料によると、市立芸大でも独自に授業料減免制度があり、「入学後、奨学金等を受給してもなお経済的理由により授業料の納付が困難な学生に対し、世帯所得金額が基準を下回る場合等に、授業料の減免を行っている」「令和3年度実績:授業料適用者のべ85人、減免額1497万円」とのこと。こういう制度は非常に重要だと思う。さらに充実・拡充していっていただきたい。

合わせて、「市立芸大の入学料・授業料収入額」も出していただいた。令和3年度は、入学料収入が1億3072万円、授業料収入が5億6124万円とのこと。つまり、仮に市立芸大の授業料を半額にした場合、京都市の新たな負担は2億8000万円ほど、入学金も含め完全無償化した場合は、6億9000万円ほどの市負担となるという理解でよいか。

(→長谷・京都芸大文化連携推進部長)議員団要求資料で出させていただいた通り、その数字の通りで間違いない。

◆やまね/私はいまこの数字を見ていて思うのは、市立芸大の移転整備には300億円という巨額のお金を投じていることを考えれば、一人ひとりの学生さんをもっと応援することもできるのではないか。市立芸大の授業料半額には3億円もかからない。芸大移転整備費の実に100分の1以下だ。どちらが若手アーティストへの支援になるか。京都市が先陣を切って学費値下げをおこない「芸術をしたい人は京都市へ」と打ち出してこそ、京都市が文化芸術や若い人を大切にする街であることを訴えられるのではないかと思っているので、引き続き議論させていただきたい。

2023年3月3日【予算特別委】文化市民局/美術館運営費、学生支援など

(更新日:2023年03月03日)