「保健所削減」「感染症担当部門の集約化」を京都市はどう説明してきたか

京都市の全11行政区に存在した感染症対応部門が1ヵ所に集約されたのは2017年4月のこと。この時、京都市は議会でどんな説明をしていたのか。あらためて議事録を読み返してみた。

2016年12月2日、京都市会・教育福祉委員会で市保健福祉局は「違法な『民泊』の適正化に向けた衛生課業務等の集約化に伴う体制等について」報告している。

当時、京都市が際限なく観光客と宿泊施設を呼び込むなか、違法民泊や簡易宿所が激増し、各区役所の担当では手が回らないほど市民からの苦情が相次いでいた。市保健福祉局は次のように説明している。

「違法民泊指導や営業施設の監視・指導など、施設や営業者に出向く業務について、より専門的・効率的・重点的に対応できる体制を構築」

「感染症や食中毒対応など、昼夜・平日・休日の別なく、広域的に発症者の住居や勤務先、飲食店等に出向き、速やかな対応が必要な業務を、より迅速かつ効率的に対応できる柔軟な体制に」

「組織は時代時代の要請において見直していくべきもの。民泊が急増する状況、あるいは新型インフルエンザ等広域的な感染症の可能性が非常に高くなり、大量に対処する必要が生じている下、集中化した部署を置くのが大きな要請ではないか」

「どんな組織体制にもプラスマイナスがある。様々関係機関等と協議し具体的課題について対処し、デメリットについても消していく」

これに対し、日本共産党・加藤あい議員が「保健センターの衛生課の職員90人(2016年4月18日時点)は、全員が薬剤師、獣医師、食品衛生監視員、環境衛生監視員など資格職の職員」であることを指摘。その職員が、保健所時代の2009年には121人、保健センターとなった2010年には101人、そしてこの時点で90人となり、「7年で30人減らされている」ことを指摘した。このことは市保健福祉局も認める答弁。

*加藤議員の質疑文字起こしはこちらから→http://yamane-tomofumi.jp/activity-diary/2424

それならば、11行政区でそれぞれ平均3人程度人員が減っていることになり、加藤議員は「マンパワーの不足があるなら、そこに手当をしていないことが問題ではないか」と根本問題を指摘。これに対し市保健福祉局は「それぞれの部署は状況によって増減する」「民泊についてはここ数年大きくなっており、その対処を考えないといけない」「今回の集約化は反省という意味でなく、今の時代の要請の中で可能な限り対応していく必要なもの」と答弁。

加藤議員は重ねて「全体の経過の中で保健センターの衛生課の職員体制が今まで本当に十分なものだったのか。ここから議論を始めないといけない」と指摘し、「公衆衛生に関わる生活衛生部門の対応は増大している」「食中毒や感染症の業務集約化をすれば地域の公衆衛生施策が前進するのか、その根拠はどこにあるのか」と追及。

市保健福祉局は「10人で10の業務をしている状態から10人で9の業務をすれば増員効果が出る」「不要不急の業務を見直し、空いた隙間で充実していく」「公衆衛生を後退させるために組織を見直しするわけではない」と答弁。地域の公衆衛生がどう向上するかは言えず。

続けて加藤議員は、食中毒対応で各区役所の保健所機能が果たす役割を紹介し、「危機管理業務と地域の保健センターが担ってきたことを切り離すリスク」を指摘。「地域の特性(左京区では病院・大学・留学生が多い等)に応じた様々な施策が展開されるべき。人口や年齢の傾向、昼間の流入人口等を捉え、全体としての生活衛生向上を保健センターが担ってきた」と追及。

これに対し市保健福祉局は「業務が一切後退することもないし、職員の対応が変わることもない。より一層専門性を高めて適切にやる」「地域の実情については十分に把握して適切に対応」「より地域に根差した取組をしていくのが組織改正の目的」と答弁。

ここで加藤議員がたたみかける。

加藤議員「今の答弁は『集約化でむしろ地域に根差す業務が前進する』ということか」

(→市保健福祉局)集約化と6つの部門の窓口を合わせてより一層充実させていきたい。

加藤議員「生活衛生についてどうか(前進するのか)」

(→市保健福祉局)維持向上していくのが今回の目的。当然その目的のために全力でがんばる。

結局、京都市側は生活衛生の業務が向上する根拠は何一つ示せず、「がんばる」としか言えなかったのである。

加藤議員はこのやり取りを受け、「やはり日常業務、予防の取組、これがいざという事態の発生を抑えている」「日常の予防活動の延長線上に危機管理業務があるのだから、行政区の窓口体制(保健センター)が不十分なのであれば、その体制を充実させることが筋だ」「『集約化で充実向上』という見通しは見えてこない」と厳しく指摘。これに対し市保健福祉局は「人員が無尽蔵にあれば、たくさん増やしたいというのは当然の願い」と答弁。各行政区での保健所機能後退への認識を聞いているにもかかわらず、論点をずらす答弁をおこなった。

加藤議員は最後に「改めてこれまでやってきた生活衛生の業務が、本来どういう役割を果たすべきで、それが厳しい状況なのであれば、その根本原因を見定める必要がある。集約化すれば新たなリスクが出てくる」と指摘している。

同日の委員会では、京都府保険医協会から提出された陳情も議論され、同じく共産党の玉本なるみ議員が、医療現場の声を紹介する質疑をおこなったが、京都市は各区役所の人員配置について「4月直前ギリギリまで分からない」と、公衆衛生に関わる重要問題を説明しない姿勢を変えなかった。

*玉本議員の質疑文字起こしはこちらから→http://yamane-tomofumi.jp/activity-diary/2426

それではいま、コロナ禍で京都市の感染症対応部門では何が起きているだろうか。

◆濃厚接触者でさえPCR検査が遅れ、無症状の感染者を把握できていない。
◆保健所職員の過労死ライン超の長時間労働が1年半以上改善されない。
◆集約化した職員だけでは足りず、区役所から大量の応援職員を送り込み対応。
◆狭い部屋に大量の人間が詰め込まれ、もしこの中で感染者が生まれれば、京都市の保健所機能は途端にストップする可能性。

などなど、問題点をあげればきりがない状況で、もはや京都市の感染症対応が「迅速」「効率的」でないことは明らかである。まさに医療関係者のみなさん、共産党議員団が指摘してきた問題が現実のものとなっている。

保健所の統廃合は全国的に進められてきた問題だが、京都市ではそれに加え「オーバーツーリズムへの対応」も口実に公衆衛生が後退させられたのが重大だ。あらためて今必要なことは「保健所機能を11の行政区(+3つの支所も含めて)全てに復活させる」ことであり、「観光優先」の政策を転換することではないだろうか。

(更新日:2021年08月27日)